【日月物語】第6話「16歳の夏」

【日月物語】

照りつける太陽の元で、

ミンミンと鳴くセミの音。

朝露がまだかすかに残る頃、

雪音は森の中で瞑想にふけっていた。

「・・・」

すると、世話役の女が声をかけてきた。

「雪音さん、あがり様がお呼びです」

「雅さん、こんなところまでわざわざすみません」

二人はそのまま社に向かって歩きだした。

「ねぇ、雅さん、ひとつ聞いても」

「えぇ、何でしょう」

「巫女になると男女の結びは禁止されるって本当?」

「えぇ、本当よ」

「それはなぜ?」

「男女が結ばれるとその力を失うらしいの」

「日月の心を見る力?」

「えぇ」

「私、あがり様の言いつけで、日月の心を見るために瞑想を続けてきたけど、巫女になんてなりたくない」

「大丈夫よ、雪音さんは巫女にはならないわ、

あくまで時をかける際の心の仕度とあがり様は仰っているわ」

「実はそれは私を巫女にしたいための偽りだったりして」

「そんなことないわ、実は私も・・・」

「えっ!?何!?」

「何でもないわ、さぁ、社に着きました、

あがり様のところへ」

二人は社に入って行った。

「あがり様、何の用でしょう?」

雪音は言った。

するとお日見村のとある親子がしわだらけの女の前に座っていた。

「この娘は本日10歳になったばかりの子だ、

この子に日の心があるか見極めよ」

「えっ、私が?」

「そうだ」

「無理だよ、まだお日様と会話したこともないのに」

「お主の心は既にできると言っておる、つべこべ言わずにさっさとここに座れ」

雪音は敷かれている座布団に腰かけた。

「麻は、日の心を持っている」

しわだらけの女は親子に説明すると、

「さぁ、雅よ、これを焚け」

世話役の女は大量の麻に火をつけた。

すると雪音は静かに目を閉じた。

その姿は神色漂うかのごとく整然としていた。

しばらくして、

雪音はそっと目を開いて言った。

「日の心に呼ばれている」

すると、しわだらけの女が微笑んで親子に言った。

「そなたの子は日の心を持っている、さぁ、村へ帰りなさい」

「ありがとうございます」

親子は喜んで社を出て行った。

「あがり様、私、見えた」

「お主、暗闇の中で何を観た」

「目を閉じると、あの子の氣の流れが見えました、

そして突然に目を開けたくなって、

言葉が上から降りて来ました」

「お主、今いくつになった」

「16です」

「あと二年か・・・」

「えっ、どういうこと?」

「あと二年でお主を過去に送ることになる」

「えっ、時をかけるって、まさか?」

「わしが送る、お主の両親には黙っておけ」

「・・・」

「お主を巫女にするつもりはない、安心せい」

「あがり様って、いつからこの村に?」

「それはいずれ教えるつもりだが、

今はとにかく夜の儀式まで森へ行ってこい」

こうして雪音は森へ瞑想しに向かった。

すると、頭上の太陽から雪音に向かって光の柱が降りて来た。

「お日様の声が聴こえる」

雪音は耳をすませた。

「日の民よ」

「あなたはお日様ですか?」

「我は問いに答えることはできぬ」

「日の民って、私は日の心を授かったのでしょうか?」

「繰り返す、我は問いに答えることはできぬ」

「えっ、あー、えっと・・・はい」

「日の民よ、なんじを信じ抜け」

「はい!わかりました!」

雪音が元氣よく答えると光の柱は太陽へ戻って行った。

「私、お日様と話せた・・・」

すると雪音のみぞおちが輝き出した。

「何!?これ!?」

「もしかしてこれが・・・」

雪音は歓喜に包まれながらも、

瞑想をする場所に着いた。

「心を鎮めなきゃ」

すると突然空が暗くなり、

雨が降り始めた。

「・・・」

雪音は瞑想を続けた。

すると空から落雷が雪音のすぐ側に落ちた。

「・・・」

雪音は微動だにせず、

ただ静かに佇んでいた。

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