【日月物語】第2話「麻と酒と」

【日月物語】

「ばぁ様、あがりばぁ様、雪音を連れて参りました」

大きな声で男は言った。

「どうぞこちらに」

世話役の女に連れられて、二人は社の奥の部屋に入って行った。

すると、しわだらけの女が目をつぶりながら、手招きしている。

「二人共ここに座りなさい」

用意された敷物に座ると、

辺りをキョロキョロ見渡す雪音。

周りには異様な絵が、まるで今までの世界の歴史を語るかのように飾られている。

すると、雪音はある絵に釘付けになった。

その絵はおぞましいほどの大洪水の絵だった。

「その絵が氣になるか?」

しわだらけの女が尋ねると、

「なんだか怖い」

そう言いながらも、

雪音はじっとその絵を見つめていた。

「さぁ、これより儀式を行う」

しわだらけの女は瞑想を始めた。

しばらくして、瞑想を続けるしわだらけの女に男は言った。

「あがり様、娘は一体どっちなのでしょうか?」

「これを焚きなさい」

男の言葉を無視して、しわだらけの女は世話役の女に麻の葉を燃やすように言った。

モクモクと煙を上げながら、部屋の隅々まで煙が行き届く。

「麻は、日の心を持っている」

続けてしわだらけの女が言った。

「麻に呼ばれなければ、そのまま帰りなさい」

「呼ばれるに決まってる」

男は言った。

すると、男はだんだんと幸せな感覚に包まれて行った。

そんな中、雪音には何の変化も現れてない様子だった。

「儀式は終わった、そのまま帰りなさい」

「え、ちょっと待って下さいあがり様」

「雪音は月の心だったということですね?」

「夜にまた来なさい」

「そうでしたが、わかりました」

「ほら、雪音、帰るぞ」

二人はまた村に戻った。

すると、牛飼いの男がこっちに向かって来る。

「おーい、テル、雪音ちゃんの儀式は終わったのかい?」

「あぁ、お日様ではなかったようだ」

「そっか、では隣り村へ?」

「いや、俺たちのお家はここだ、雪音はここで暮らす」

強い口調で男は言った。

家に着くと、はた織りをしながら心配そうに待つ女の影が見えた。

バンと扉を開くと男は言った。

「おーい、月音、お前の勝ちだ」

はた織りの手を止めて女は言った。

「そうでしたか、ではまた夜の儀式へ?」

「あぁ、俺は夜だと社には入れねぇ、月音、頼んだぞ」

「わかりました」

しばらく二人のやり取りを聴いていた雪音が口を開いた。

「ねぇ、パパ、ママ、私はママ似?」

「あぁそうだ、雪音はママと同じさ」

しばらくして夜が来た。

月の明かりを頼りに社に向かって歩く二人。

「ねぇ、ママ、お月様ってなんで私をずっと観ているの?」

「それはね、雪音にはパパにはなくて、ママにあるモノを持っているからだよ」

「月の心?」

「えぇ、そうよ」

「じゃあ、なんでお日様も私を観るの?」

「・・・」

女は薄っすらと涙を浮かべながら微笑んだ。

社に着くと、お昼に観た世話役の女が立っていた。

「お待ちしておりました、さぁ、いり様のところへ」

社の奥には、さきほど、しわだらけの女が座っていたところに、今度は美しい若い女が座っていた。

「さぁ、どうぞ、こちらへ」

若い女は言った。

二人は用意された敷物に座った。

そして雪音はあの大洪水の絵を一瞬観たが、すぐに目をそらした。

「さぁ、これより儀式を行います」

若い女は続けて言った。

「これをお飲みなさい」

小さな器になみなみと注がれたのは、隣村で創られたお酒だった。

「さぁ、飲んで」

雪音は器を手に取り、ゴクゴクと飲み干した。

「うえー」

下を出しながら雪音が苦しそうにしている。

「お酒は、月の心を持っています」

「今からその心と雪音さんの心が共鳴するかを観て行きます」

そう言うと、若い女は瞑想を始めた。

しばらくすると、

閉じていた女の目がそっと開いた。

「月の心との共鳴は起きませんでした」

「そうでしたか・・・」

事態を把握した女の目に涙が溢れた。

「いり様、雪音はこれから何を信じて生きて行けばいいのでしょうか?」

「少なくともお日様とお月様を信じてはいけません」

「これは古い言い伝えですが、過去に起きた心の大掃除の時代に、とある一人の少女が、この國を救ったという話があります」

「その少女が一体何を信じていたのかは今は知る由もありませんが、きっと雪音さんも何か大切なモノを信じる時が来るはずです」

若い女の言葉を受けて、雪音は沈黙していた。

二人は社を出た。

「ねぇ、ママ、産んでくれてありがとう」

満点の笑みを浮かべながら雪音が言った。

「生まれてくれてありがとう」

女も微笑み返した。

しばらく沈黙が続き、

雪音は歩きながら女の手を握った。

「ママはいいなぁ、私もお月様とお話したい」

「雪音もきっとお話できるわよ」

「ねぇ、今お月様は何か言っている?」

「お月様はいつでも雪音を見守っているわ」

「うん」

二人は村に戻った。

すると、村の入口で男が待っていた。

「パパ、ただいま」

「おかえり」

「どうだった?」

「あなたが言う通り、雪音は特別な子だったわ」

「そうか」

事態を把握した男は雪音の頭にそっと手を載せた。

「きっと上手く行く、そうに違いない」

男は強い口調で言った。

そして三人が家に帰ると、雪音が口を開いた。

「ねぇ、パパママ、私、パパとママを信じたい」

「そっか、パパも雪音のことを信じているよ」

「ママも雪音のこれからを祈っているわ」

「さぁ、もう今日は遅い、そろそろ寝ようか」

三人はひとつのベッドで眠ることにした。

「ねぇ、パパとママの出逢いを教えて」

「そうだな、雪音も半分大人になったから、この機会に全て話そうか」

男は語り始めた・・・

YouTube動画(全テロップで音声とBGM付)【日月物語】第3話「禁じられた愛」

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