照りつける太陽の元で、
ミンミンと鳴くセミの音。
朝露がまだかすかに残る頃、
雪音は森の中で瞑想にふけっていた。
「・・・」
すると、世話役の女が声をかけてきた。
「雪音さん、あがり様がお呼びです」
「雅さん、こんなところまでわざわざすみません」
二人はそのまま社に向かって歩きだした。
「ねぇ、雅さん、ひとつ聞いても」
「えぇ、何でしょう」
「巫女になると男女の結びは禁止されるって本当?」
「えぇ、本当よ」
「それはなぜ?」
「男女が結ばれるとその力を失うらしいの」
「日月の心を見る力?」
「えぇ」
「私、あがり様の言いつけで、日月の心を見るために瞑想を続けてきたけど、巫女になんてなりたくない」
「大丈夫よ、雪音さんは巫女にはならないわ、
あくまで時をかける際の心の仕度とあがり様は仰っているわ」
「実はそれは私を巫女にしたいための偽りだったりして」
「そんなことないわ、実は私も・・・」
「えっ!?何!?」
「何でもないわ、さぁ、社に着きました、
あがり様のところへ」
二人は社に入って行った。
「あがり様、何の用でしょう?」
雪音は言った。
するとお日見村のとある親子がしわだらけの女の前に座っていた。
「この娘は本日10歳になったばかりの子だ、
この子に日の心があるか見極めよ」
「えっ、私が?」
「そうだ」
「無理だよ、まだお日様と会話したこともないのに」
「お主の心は既にできると言っておる、つべこべ言わずにさっさとここに座れ」
雪音は敷かれている座布団に腰かけた。
「麻は、日の心を持っている」
しわだらけの女は親子に説明すると、
「さぁ、雅よ、これを焚け」
世話役の女は大量の麻に火をつけた。
すると雪音は静かに目を閉じた。
その姿は神色漂うかのごとく整然としていた。
しばらくして、
雪音はそっと目を開いて言った。
「日の心に呼ばれている」
すると、しわだらけの女が微笑んで親子に言った。
「そなたの子は日の心を持っている、さぁ、村へ帰りなさい」
「ありがとうございます」
親子は喜んで社を出て行った。
「あがり様、私、見えた」
「お主、暗闇の中で何を観た」
「目を閉じると、あの子の氣の流れが見えました、
そして突然に目を開けたくなって、
言葉が上から降りて来ました」
「お主、今いくつになった」
「16です」
「あと二年か・・・」
「えっ、どういうこと?」
「あと二年でお主を過去に送ることになる」
「えっ、時をかけるって、まさか?」
「わしが送る、お主の両親には黙っておけ」
「・・・」
「お主を巫女にするつもりはない、安心せい」
「あがり様って、いつからこの村に?」
「それはいずれ教えるつもりだが、
今はとにかく夜の儀式まで森へ行ってこい」
こうして雪音は森へ瞑想しに向かった。
すると、頭上の太陽から雪音に向かって光の柱が降りて来た。
「お日様の声が聴こえる」
雪音は耳をすませた。
「日の民よ」
「あなたはお日様ですか?」
「我は問いに答えることはできぬ」
「日の民って、私は日の心を授かったのでしょうか?」
「繰り返す、我は問いに答えることはできぬ」
「えっ、あー、えっと・・・はい」
「日の民よ、なんじを信じ抜け」
「はい!わかりました!」
雪音が元氣よく答えると光の柱は太陽へ戻って行った。
「私、お日様と話せた・・・」
すると雪音のみぞおちが輝き出した。
「何!?これ!?」
「もしかしてこれが・・・」
雪音は歓喜に包まれながらも、
瞑想をする場所に着いた。
「心を鎮めなきゃ」
すると突然空が暗くなり、
雨が降り始めた。
「・・・」
雪音は瞑想を続けた。
すると空から落雷が雪音のすぐ側に落ちた。
「・・・」
雪音は微動だにせず、
ただ静かに佇んでいた。
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