お月見村には二つの掟があった。
一つ目は、闇落ちしたお日見村の人と、
深く干渉してはいけないということ。
次に、一度捨てた名前はもう二度と口にしてはいけないということ。
もし一度でも口にしたらならば村を出なければならない。
そんな掟もあってか、
この村の人々は自らの名前をとても大切にしていた。
ここでタイトル
「なんだ、この輝きは・・・」
男はその場でうずくまった。
「まさか、これが・・・」
男はまるでみぞおちに大切な別の生命が宿っているかのように感じていた。
「男よ・・・」
どこからともなく声が聞こえてくる。
「なんだこの声は?」
「我はそなたの真の主なり」
「真の主?」
「男よ、そなたの声を聴け」
「なんだ?言っている意味がわかんねぇ」
すると、その声は遠くへ消えて行った。
「なんだったんだ?今のは?」
男は聞こえた声のことををしばらく考えてみたが、
結局のところ何もわからなかった。
「良し、とにかくもう一度月音さんに会わなくては」
男は社の敷地をまたぐと、
「おーい!月音さーん」
大きな声で何度も呼び掛けた。
すると社の扉が開いた。
出て来たのはしわだらけの女だった。
「あがり様!」
男は言った。
するとしわだらけの女が目を見開いて強い口調で言い放った。
「この罰当たりが、その名を呼んではならん」
「えっ!?あっ、そっか、あがり様、いり様とお話がしたいのですが・・・」
「ならん!今すぐ立ち去れ」
「お願いですあがり様、実は俺、彼女のことが・・・」
「お主、声は聴いたか?」
「え!?あっ、はい!!先ほど真の主(あるじ)と申す者の声なら聞こえましたが・・・」
「そうか・・・」
「あがり様、あの声は一体?」
「今すぐにそなたの村へ帰りなさい」
「そうでしたが、俺はついに岩戸が開いたのですね」
「そなたの心は満ちた。さぁ、早く行きなさい」
「でも、待ってください、もう一度だけ、最後にもう一度だけあの人に会わせてくれませんか?」
「・・・」
しわだらけの女は黙り込み、ずっと男に睨みを効かせている。
「くそ、こうなったら!」
男は睨みを効かせているしわだらけの女を力づくで退け、社の中に入って行った。
「奥の広間には誰もいねぇな!よし!今度はあの部屋を見てみよう」
男は社の寝室のドアを開けた。
「おーい、雪音さん!」
すると、瞑想をしていた若い巫女の姿があった。
「・・・」
若い巫女はそのまま瞑想を続けている。
「雪音さん、いや、すまねぇ、いり様!お願いします!
どうか僕と共にお日見村で暮らしませんか?」
「・・・」
「俺もなんでいきなりこんなことを言っているのかサッパリわからねぇ、ただ、俺はあの時、川で会った時から、あなたのことで頭がいっぱいなんです!お願いだ!俺と共に来てくれ!」
「・・・」
「待つ!俺はあなたを待つ!」
そう言うと男は社を出た。
するとそこにしわだらけの女が立っていた。
「あがり様、すまなかった・・・」
すると男はなぜかお月見村へと向かった。
しばらくして、お月見村に着いた男は、お墓の前に行き、そこに座り込んでいる顔をあからめた男に向かって言った。
「陽!待たせたな!」
顔をあからめた男は余りにもその眩しい姿に一瞬誰だかわからなかった。
「照か?お前、まさか・・・」
「あぁ、俺の岩戸は開いた、次ははお前の番だ、陽」
「なぜだ!?一体どうやって!?」
「詳しくはわからねぇが、今の俺ならお前を救える」
「照・・・」
すると、男の輝きに共鳴するかのように顔をあからめた男のみぞおちが輝き始めた。
「なんだ、これは・・・」
「ガハハハ、その調子だ!陽!やったぞ!」
「苦しい・・」
「苦しいのは今だけさ!いいかー陽、良く聞け!これが岩戸開きって奴なんだ」
「照、お前・・・」
顔を赤らめた男の眼には涙が溢れた。
「ありがてぇ!本当にありがてぇ・・・」
こうして二人はお月見村を出た。
「いやー照、本当にすまなかったな」
「なにを言ってんだ!当たり前のことをしたまでさ」
すると二人は川に着いた。
川では一人の女が洗濯をしていた。
「おい照!見ろよ!べっぴんさんだ」
「陽、悪いが先帰ってくれ・・・」
「なんだ?」
「お願いだ!」
「え、あぁ、わかった!」
すると顔をあからめた男は一人で村へ帰って行った。
すると男は何も言わず女のそばにしゃがみ込み、
洗濯を手伝い始めた。
洗濯していた女は若い巫女だった。
「結構です、人の手は必要ありません」
「いや、手伝わせてくれ」
「・・・」
洗濯が終わると、洗濯物をかごの中に入れ、
それを軽々と持ち上げながら男が言った。
「社までかい?」
「えぇ・・・」
すると二人は無言のまま社に着いた。
「ありがとうございました」
「礼なんて要らねぇさ、俺はあなたのそばに少しだけでも居れて幸せだったんだ」
「なぜそんなにも私のことを・・・」
「それは良くわからねぇ、でもひとつだけわかったことがある。俺はあなたを一生待ち続けても悔いはねぇ」
「・・・」
すると若い巫女の眼にうっすらと涙が・・・
「名前、本当は捨てたくなかったんだよな?」
すると突然若い巫女の眼から大粒の涙があふれ出した。
「なぜそのことを・・・」
「わかるさ!でも、俺は諦めないし、あなたも諦めちゃいけねぇ」
「諦めない!それが俺たちお日見村の本当の姿さ!」
一瞬男の姿から神々しい光が放たれた。
「・・・」
若い巫女は深々と礼をした。
「では、またいつか会える日を楽しみにしております」
「おう!またな!」
「これがパパとママの最初の出逢いさ。って雪音はもう寝ちゃったのか?」
「えぇ、それにしても懐かしい氣持ちになれました」
「そうだな、ではそろそろ俺たちも寝るとするか」
「えぇ」
次回:特別な子(近日公開)
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